スタジアムは「観戦施設」から「地域の象徴」へ
近年、日本各地で新設・改修されるスタジアムは、単なるスポーツ観戦の場を超え、地域の文化や経済、そして人々の暮らしと密接に関わる「地域共生型スタジアム」へと進化しています。その代表例が、京都府亀岡市に位置する「サンガスタジアム by KYOCERA(以下、サンガスタジアム)」です。
本記事では、サンガスタジアムの設計思想と地域との関係性に焦点を当て、建築的視点と体験者の目線を交えながら、その魅力と可能性を深掘りします。
サンガスタジアムの基本情報と立地の意義
サンガスタジアムは、2020年に開業した京都サンガF.C.のホームスタジアムであり、収容人数は約21,600人。JR亀岡駅から徒歩1分というアクセスの良さが特徴です。
この立地は、単なる利便性にとどまらず、「駅前スタジアム」という都市計画的な意義を持ちます。地方都市における中心市街地の活性化、観光導線の再構築、そして地域住民の回遊性を高める設計思想が背景にあります。
設計思想:観戦体験を極限まで高める「臨場感設計」
サンガスタジアムの設計において最も注目すべきは、「臨場感の最大化」を追求した観戦環境です。以下のような設計的工夫が施されています。
- ピッチと観客席の距離が最短約7.5m
国内スタジアムの中でもトップクラスの近さで、選手の息遣いやボールの音まで感じられる没入感を実現。 - 四方を囲む急傾斜スタンド
視界の抜けがなく、どの席からでもピッチ全体を見渡せる。特にバックスタンドは最大35度の傾斜で、まるでピッチに吸い込まれるような感覚。 - 屋根の全席覆い設計
雨天時でも快適に観戦でき、音響効果も高めることで応援の一体感を演出。
これらの設計は、単なる「見やすさ」ではなく、「観る・感じる・一体になる」体験を提供することを目的としています。
地域との関係性:スタジアムがまちを変える
サンガスタジアムは、地域との関係性を重視した「開かれたスタジアム」として設計されています。以下のような取り組みがその象徴です。
日常利用を想定した複合機能
- カフェ・レストラン・温浴施設・eスポーツゾーンなど、試合日以外でも利用可能な施設を併設。
- 地元住民が日常的に訪れることで、スタジアムが「生活の一部」として機能。
地域資源との連携
- 地元産木材を使用した内装や、京都の伝統工芸を取り入れたデザイン。
- 亀岡市の観光資源(保津川下り、嵯峨野トロッコ列車)との連携で、観戦+観光の相乗効果を創出。
環境配慮とサステナビリティ
- 太陽光発電や雨水利用など、環境負荷を抑えた設計。
- SDGs未来都市・亀岡市の理念と調和したスタジアム運営。
スタジアム体験が生む「応援文化」と「地域愛」
筆者が実際に現地観戦した際、印象的だったのは「応援の一体感」と「地域とのつながりの濃さ」でした。
- 試合前には地元の子どもたちによるパフォーマンスや、地元グルメの屋台が並び、まるで地域のお祭りのような雰囲気。
- 試合中は、スタジアム全体が一体となって声援を送り、勝敗を超えた「共に戦う」空気が流れる。
- 試合後には、駅前で地元商店街の人々が「お疲れさま」と声をかけてくれる温かさ。
このような体験は、スタジアムが「地域の誇り」として根付いている証拠であり、設計思想と地域文化が融合した結果といえるでしょう。
おわりに:スタジアムは「建築」から「文化」へ
サンガスタジアムは、単なるサッカー観戦施設ではなく、建築的魅力・地域文化・市民の誇りが融合した「体験型スタジアム」です。その設計思想は、今後の地域スタジアムの在り方に一石を投じるものであり、地方創生のモデルケースとしても注目されています。
スタジアムを訪れることは、試合を観るだけでなく、「まちを感じる」こと。サンガスタジアムは、そんな新しい観戦体験を提供してくれる場所なのです。



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