サッカー観戦は、すべての人に開かれた体験であるべきです。しかし現実には、車椅子利用者や高齢者にとって、スタジアムには段差・混雑・視認性の課題が残されています。
筆者は空間設計と動線分析を専門とする建築会社勤務者として、京都サンガF.C.のホーム「サンガスタジアム by KYOCERA」に何度も足を運び、現地での応援体験を通じてその設計力を検証してきました。
本記事では、専門的な視点と実体験をもとに、サンガスタジアムがどのように“誰もが応援できる空間”を実現しているのかを詳しく解説します。
1. 車椅子利用者に配慮された座席配置と視認性
サンガスタジアムでは、車椅子席がメインスタンド・バックスタンド・ゴール裏にそれぞれ設けられており、試合の見え方や応援スタイルに応じて選択できるのが特徴です。
特にバックスタンドの車椅子席は、ピッチ全体を俯瞰できる視認性が確保されており、前方に遮るものがない設計になっています。
筆者が現地で確認したところ、座席の高さと傾斜角が絶妙で、座ったままでも選手の動きが追いやすい構造でした。
また、車椅子席の周囲には介助者用の座席も設けられており、家族や支援者と一緒に観戦できる安心感があります。
これは「応援は孤立させない」という設計思想の表れだと感じました。ホームゴール裏でもときどきお見掛けしますが、結構見やすい中心地の後ろ側にあり、各席種でも見やすく十分試合を感じられるところに作ってあります。
2. 高齢者に優しい動線設計と安全性の工夫
高齢者にとって、スタジアム内の移動は大きな負担になりがちです。
サンガスタジアムでは、エレベーター・スロープ・手すりの配置が非常に計算されており、筆者の建築的視点から見ても“動線の無理がない”設計が徹底されています。
例えば、メインスタンドのエレベーターはコンコースからのアクセスがスムーズで、階段を使わずに座席まで移動できます。
スロープの傾斜も緩やかで、車椅子だけでなく杖を使う方にも配慮されています。
さらに、手すりの高さ・間隔・素材にも工夫があり、握りやすく滑りにくい設計になっている点は、安全性と快適性の両立を感じさせます。
3. トイレ・売店・案内所の配置と回遊性
バリアフリー設計は、座席だけでなく「スタジアム内の生活動線」にも及びます。
サンガスタジアムでは、車椅子対応トイレが各スタンドに複数設置されており、案内板の視認性も高く、迷いにくい構造になっています。
筆者が家族連れで観戦した際も、トイレの場所がすぐに見つかり、混雑も少なく安心して利用できました。
売店も通路幅が広く、車椅子でも並びやすい設計になっているのが印象的でした。
また、案内所のスタッフが積極的に声をかけてくれる文化もあり、空間設計と人的サポートが連携して“安心感”を生んでいると感じます。
4. 応援スタイルの多様化と“参加しやすさ”の設計
サンガスタジアムでは、立ち応援だけでなく、座って手拍子するスタイルや、静かにタオルマフラーを掲げる応援も定着しています。
これは、応援の“参加しやすさ”を設計で支えている証です。
筆者は、初心者や高齢者が「応援してみようかな」と思える空間づくりこそが、応援文化の持続性につながると考えています。
座席の傾斜・視線誘導・音響設計が、声を出さなくても“応援している実感”を得られるよう工夫されているのです。
応援は「声を出すこと」だけではなく、「共感すること」「参加すること」。
その多様性を受け止める空間設計が、サンガスタジアムにはあります。
5. 建築的視点から見る“誰もが応援できるスタジアム”の条件
筆者が空間設計の専門家として感じるのは、「バリアフリー=段差をなくす」ではなく、「誰もが安心して動ける設計」であるということです。
サンガスタジアムでは、視認性・動線・安全性・案内性・応援参加のしやすさが、すべて連動して設計されています。
これは、単なる設備の充実ではなく、“応援文化を支える空間”としての完成度の高さを示しています。
建築は、人の行動と感情を支える“見えない力”です。
サンガスタジアムは、その力を最大限に活かし、「誰もが応援できるスタジアム」を実現しています。
まとめ|応援は“設計された安心感”から生まれる
サンガスタジアムのバリアフリー設計は、車椅子利用者・高齢者・初心者・家族連れ――すべての人にとって“応援しやすい空間”を提供しています。
筆者自身も、建築的視点と現地体験を通じて、「応援は空間から始まる」ことを実感してきました。
これからも、誰もが安心して紫の情熱を共有できるスタジアムづくりが進んでいくことを願っています。
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