一級建築士が解説するサンガスタジアムの設計|屋根・ピッチ・動線の秘密

京都サンガ

サンガスタジアム by KYOCERAに初めて入ったとき、「よく考えられた設計だ」と感じました。スタジアムを訪れる人のほとんどは試合や選手に目が向きますが、私は一級建築士として建設会社で施工監理に携わっています。スタジアムに着いたとき、屋根の張り出し方、コンコースの幅、ピッチと客席の距離を自然と観察してしまいます。この記事では、2004年からゴール裏に通い続けたサポーターとして、そして一級建築士として、サンガスタジアム by KYOCERAの設計の面白さを解説します。

サンガスタジアム by KYOCERAの基本情報と設計の概要

設計・施工・コンセプト

サンガスタジアム by KYOCERAは、京都府が建設した球技専用スタジアムです。条例上の名称は「京都府立京都スタジアム」で、京セラが命名権を取得して現在の名称になっています。

基本設計は日本設計、実施設計は東畑建築事務所、施工は竹中工務店が担当しました。2019年に竣工し、2020年1月に開場しました。収容人数は約21,600人です。

設計コンセプトは「みんなの笑顔きらめくスタジアム」最高の観戦環境の創出、周辺環境への影響の最小化、ライフサイクルコスト低減の3つを実現することを目標に計画されました。一級建築士として見ると、この3つのコンセプトがスタジアムの細部にきちんと反映されていることが、実際に通い続けて感じていることです。

八角形という特徴的なスタンド形状

一般的なスタジアムは楕円形が多いですが、サンガスタジアムは八角形のスタンド形状を採用しています。これは敷地の形に合わせて四隅を大きく切り取った結果です。

建築士として見ると、この八角形という選択はとても合理的です。限られた敷地の中で観客席数を効率よく確保しながら、コンパクトにまとめるための最適解のひとつです。楕円形のように全方向に均等に広げるのではなく、敷地の制約を逆手に取った形状です。外から見たときの台形のシルエットは、亀岡盆地の山並みとの調和を意識した設計です。スタジアムに近づくにつれて、その形が周囲の山の稜線と溶け込んでいくような印象を受けます。

屋根の設計|音響・雨対策・景観調和の三つを同時に実現

スタンド先端から2m突き出す屋根の意味

サンガスタジアムの屋根は、全ての観客席を覆うだけでなく、スタンドの先端からさらに2m突き出す形状で設計されています。

この2mという数字には意味があります。スタンドの先端でぴったり止まる屋根では、強い雨が降ったとき最前列付近の座席が濡れてしまいます。2m余分に張り出すことで、雨の角度が多少あっても最前列まで雨がかかりにくくなります。「雨でも傘なしで観戦できる」という体験を実現するための、建築的な配慮です。

ゴール裏に20年通い続けて、雨の試合でも傘を差さずに声を出し続けられることは体感として感じています。タオルマフラーを頭の上で振るとき、傘を持っていると邪魔になります。屋根がしっかり機能しているおかげで、ゴール裏での応援の自由度が確保されています。

屋根が「音」を作っている

屋根の張り出しは、雨対策だけでなく音響にも大きな影響を与えています。

大きく張り出した屋根は、サポーターの声や手拍子をスタジアムの内側に閉じ込める役割を果たします。声が空に逃げずに屋根に当たって反射し、スタジアム内に響きわたります。これが「サンガスタジアムは声がよく響く」という印象につながっています。

西京極陸上競技場(現たけびしスタジアム京都)と比べると、この違いは圧倒的です。西京極は陸上競技場兼用のため屋根がなく、声が空に逃げていく感覚がありました。サンガスタジアムに移ってから同じチャントを歌うと、自分たちの声が反響して返ってくる感覚があります。同じ人数・同じ声量でも、聞こえ方がまったく違う。これは設計の力です。

一級建築士として見ると、屋根の形状・素材・傾斜角度が音の反射方向を決めます。サンガスタジアムの屋根は高さを抑えた多面体の構成になっており、音が特定の方向に集中しすぎず、スタジアム全体にバランスよく響く設計です。

ピッチと客席の近さ|設計者が最もこだわった部分

「前の人の頭を越して観戦できる」傾斜の計算

東畑建築事務所の設計担当者は、設計においてピッチと客席の距離を近づけることを最優先にしたと語っています。「前の人の頭を越して観戦できる傾斜を計算したサイトライン」という言葉が、この設計の核心を表しています。

サイトライン(視線計画)とは、客席の傾斜角度と高さを設計して、後ろの席からでも前の観客の頭が邪魔にならないよう計算することです。スタジアム設計で最も重要な要素のひとつです。

一級建築士としてこのサイトライン設計を見ると、サンガスタジアムの傾斜はかなり急な設計になっています。急な傾斜は「後ろの席からの視線が前の観客の頭を越えやすい」という利点があります。一方で、高い場所への移動が大変になるデメリットもあります。それでも急傾斜を選んだのは、「見やすさ」を最優先にした設計の意思決定です。

ゴール裏から感じるピッチとの距離感

ゴール裏に20年通い続けて、サンガスタジアムでのピッチとの距離感は体感として明確に感じています。

西京極時代は陸上トラックがあったため、ゴール裏からピッチまでの距離がありました。選手の表情は見えず、声が届く感覚もあまりありませんでした。サンガスタジアムになってからは、陸上トラックがない球技専用スタジアムのため、ゴール裏の最前列からピッチエッジまでの距離が大幅に縮まりました。GKへの声かけが届く感覚があります。選手が近くにいる。この感覚の変化は、20年間で一番大きな変化のひとつです。

アウェイで訪れた味の素スタジアムは陸上競技場兼用のため、ピッチが遠く感じます。同じJリーグのスタジアムでも、専用スタジアムと兼用施設の差がこれほど大きいかと、改めて感じます。サンガスタジアムに戻ってきたとき、「ここは近い」という感覚が毎回あります。

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JR亀岡駅との一体設計|「駅を出たらスタジアムがある」という設計思想

徒歩3分という数字の建築的な意味

JR亀岡駅の北口を出てスタジアムまで徒歩3分。この数字はスタジアムのアクセスとして非常に恵まれています。

一級建築士として施設の動線設計に関わってきた立場から言うと、「駅から徒歩3分」は単なる距離の話ではありません。駅の改札を出てから迷わずにゲートまでたどり着けるかどうか——経路の明快さと視認性の問題でもあります。サンガスタジアムは亀岡駅の北口を出た瞬間にスタジアムの姿が目に入ります。「正面に見えている」という視認性の高さは、初めて来る人でも迷わない設計として機能しています。

かめきたサンガ広場との一体構造

駅とスタジアムの間に広がるかめきたサンガ広場は、スタジアムへの「前室」として機能しています。

建築用語で「前室」とは、主要な空間に入る前の準備の場所を指します。かめきたサンガ広場は、駅の賑わいとスタジアムの賑わいをつなぐ緩衝地帯です。ホームゲームの日には、ここでかめおかECoマルシェが開かれます。「駅を出たらすぐスタジアム」ではなく、「駅を出て広場を楽しんでからスタジアムへ」という体験の流れを設計しています。

一級建築士として見ると、この広場は来場者を試合に向けて「モードの切り替え」をさせる機能を持っています。日常の移動モードからスタジアムの非日常モードへの移行を、空間として設計しているのです。私が毎試合かめきたサンガ広場に立ち寄るのは、のっそりの牛カツ巻きを買うためでもありますが、その時間が「さあ、試合だ」という気持ちへの切り替えにもなっています。

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回遊型コンコースの設計|「迷わない」を実現する動線計画

外周を一周つながるコンコースの利点

サンガスタジアムのコンコースは、スタジアムの外周を1周つながっている「回遊型」の構造です。

回遊型コンコースの最大の利点は、どのゲートから入っても目的の場所にたどり着けることです。売店・トイレ・座席への入口が外周に沿って分散配置されているため、特定の場所だけに人が集中しにくい構造になっています。一方通行ではなく、どちらの方向に歩いても目的地に着ける。このことが、試合前後の混雑緩和にもつながっています。

一級建築士として見ると、回遊型コンコースは「来場者の行動を制限しない設計」です。どこに何があるかわからない状態でも、歩き続ければたどり着ける。初めて来る方でも「迷った」という感覚になりにくいのはこの設計のおかげです。

売店の分散配置|西京極時代と比べると隔世の感がある

売店がコンコースの外周に沿って分散配置されているため、ゲート正面付近に混雑が集中しにくい構造になっています。

西京極陸上競技場時代のスタグル事情を知るサポーターには、この変化は特に大きく感じられると思います。西京極時代は売店の数が少なく、場所も分散されていなかった印象があります。晴れた日は陸上競技場の開放感があって気持ちよかったのは確かですが、スタグルを買うとなると列が集中して長かった記憶があります。売店の選択肢も今のサンガスタジアムと比べると少なく、「どうせ買えないから最初から並ばない」という判断をしたこともありました。

サンガスタジアムになってから、売店の数と配置が大きく変わりました。回遊型コンコースに沿って売店が外周に分散されているため、ひとつの売店に集中しにくい。一級建築士として見ると、これは「売れる場所をつくる」設計と「混雑を分散する」設計が同時に実現されています。さらにコンコース内の常設売店に加えて、かめきたサンガ広場のかめおかECoマルシェが「入場前の外部の売店」として機能することで、スタジアム内外でスタグルを楽しめる二層構造になっています。

20年通い続けて経験的に気づいたことですが、コーナー寄り(ゴール裏側)の売店は、ゲート正面の売店と比べて同じ時間帯でも混雑が少ない。急いでいるときはゴール裏側のコーナー付近の売店に向かうのが得策です。分散配置がしっかり機能している証拠です。

電光掲示板(大型ビジョン)|情報の見やすさが観戦体験を変えた

サポーターとして20年通い続けてきて、西京極時代と比べて「こんなに違うのか」と感じた設備のひとつが電光掲示板(大型ビジョン)です。

西京極の電光掲示板は、はっきり言って古く、見にくいものでした。スコアや選手名を確認しようとしても、画素が粗くて遠くからでは読み取りにくかった。試合中にスコアを確認したいときに、掲示板ではなく周囲のサポーターの声を頼りにしていたこともありました。

サンガスタジアムの大型ビジョンは、映像の解像度・明るさ・サイズのすべてが別次元です。選手交代の情報、スコア、リプレイ映像——これらが鮮明に見える。ゴール裏からでも掲示板の文字がはっきり読めます。一級建築士として見ると、大型ビジョンの設置位置と角度も計算されており、どのエリアの座席からも見やすい位置に配置されています。スタジアムの設備は建物本体だけでなく、こういった情報設備の質も観戦体験の一部です。試合の情報が正確に・すぐに目に入ることは、応援の判断にも直結します。アディショナルタイムが何分か、交代した選手が誰か——これがひと目でわかるだけで、ゴール裏の声の出し方が変わります。

一級建築士とサポーターの両目線から見た体験談

ここからは、サンガスタジアム by KYOCERAを建築士とサポーターの両方の目で見てきた体験を正直にお伝えします。

西京極時代の雨の試合の記憶があります。屋根がない陸上競技場だったため、雨が降ると傘を差すか、濡れるかの二択でした。ゴール裏でチャントを歌いながら傘を差すのは現実的ではありません。タオルマフラーを振るたびに雨に濡れ、試合が終わるころにはユニフォームも靴もぐっしょりでした。帰りのJR嵯峨野線に乗ったとき、座席が濡れるのが申し訳なくて立ったまま帰った記憶があります。「雨でも全力で応援できる場所がほしい」と思ったのは、あのときが最初ではなかったかもしれません。

2020年にサンガスタジアムが開場したとき、西京極から移転したことへの複雑な気持ちがありました。長く通い続けた場所への愛着と、新しい場所への期待が入り混じっていました。でも新しいスタジアムに初めて入ったとき、最初に感じたのは「これは別物だ」という感覚でした。

ゴール裏に立って最初にわかったのは、屋根の存在感です。西京極では空が広く開いていた。サンガスタジアムでは屋根が頭上に迫っています。「閉じている」という感覚です。そして声を出したとき、その声が返ってくる。チャントを歌うと、ゴール裏全体の声が包まれるように聞こえます。西京極では空に散っていった声が、サンガスタジアムでは自分たちの周りに集まっている。この体感の違いは、何よりも先に感じたことでした。

そして雨の試合で、屋根の有り難さを改めて実感しました。サンガスタジアムで初めて雨の試合を経験したとき、傘を差さずに声を出し続けられることが信じられないくらい快適でした。タオルマフラーを振っても濡れない。ユニフォームが濡れない。試合が終わっても靴がぐっしょりにならない。西京極でびしょびしょになって帰ったあの体験があるからこそ、屋根がスタンド先端から2m張り出して設計されている意味が、数字ではなく体感として理解できます。設計の数値が来場者の体験に直結している。これが建築の面白さだと思っています。

ピッチとの距離については、ゴール裏の最前列に近い場所に立ったとき、GKの動きが肉眼ではっきり見えることに驚きました。西京極では陸上トラックの分だけあった距離がない。選手と同じ空間にいる感覚がある。これが専用スタジアムの体験なのかと、20年越しに感じた瞬間でした。

一級建築士として建設現場の施工監理に携わってきた目で見ると、サンガスタジアムは「設計の意図が施工に反映されているスタジアム」だと感じます。屋根の形状の正確さ、コンコースの幅の均一さ、サイン計画の統一感——細部に至るまで設計者の意図が伝わっています。これは当たり前のことのようで、大きなプロジェクトになるほど難しいことです。竹中工務店が施工した現場の質は、訪れるたびに感じています。

開場から5年以上通い続けて、今もスタジアムに入るたびに何かを発見します。照明の当たり方、コンコースの人の流れ、試合後の退場誘導のタイミング。そのたびに「西京極ならこうはいかなかった」という比較が頭をよぎります。

売店については、正直に言うと西京極時代は「スタグルを積極的に買う」という気持ちになりにくかったです。売店が少なく、場所も限られていたため、並んでいると試合前の準備時間がなくなる感覚がありました。晴れた日の開放的な雰囲気は好きでしたが、スタグル体験としては今のサンガスタジアムと比べると物足りなかった。かめきたサンガ広場というスタジアム外の前室が生まれ、コンコース内の売店が分散されたことで、「スタグルを楽しむ」という選択肢が増えました。のっそりの牛カツ巻きを買って広場でゆっくり食べてから入場するという今のルーティンは、西京極時代にはできなかったことです。

電光掲示板の変化も、古いサポーターには特に伝わると思います。西京極の掲示板を見ながら「あの番号誰だっけ」と隣の人に聞いた経験がある人は少なくないはずです。サンガスタジアムの大型ビジョンは、ゴール裏からでも選手名が鮮明に読めます。アディショナルタイムの表示が出た瞬間、秒単位でわかる。この「情報がすぐ目に入る」という環境が、応援の判断を変えます。「あと何分」がひと目でわかるから、ゴール裏の声の出し方が変わる。掲示板のクオリティが応援に影響するとは思いませんでしたが、20年のあいだで一番実感した変化のひとつです。

サポーターとして応援しながら、建築士として空間を観察している。この二重の視点が、このブログを続けている理由のひとつです。

まとめ|西京極を知るサポーターだからこそ感じるサンガスタジアムの進化

サンガスタジアム by KYOCERAの設計は、コンパクトな敷地の中で「最高の観戦環境」を実現するための工夫が随所に詰まっています。

屋根の2m張り出しが雨を防ぎ、声を閉じ込める急傾斜のスタンドがサイトラインを確保する。陸上トラックのない球技専用設計がピッチとの距離を縮める。回遊型コンコースが来場者の動線を分散させ、充実した売店が各所に配置される。鮮明な大型ビジョンが情報をすぐに届ける。駅と広場との一体設計が「試合へのモード切り替え」を演出する。これらがすべてつながって、ひとつのスタジアム体験を形成しています。

西京極時代を知るサポーターにとって、これらの変化はひとつひとつが「あのころとこんなに違う」という実感を持って受け取れるはずです。雨でびしょびしょになって帰った夜、売店に並んで試合前の時間がなくなった日、掲示板の番号が読み取れなくて隣の人に聞いた場面——それらの「不便」を経験してきたからこそ、サンガスタジアムの設計の丁寧さが身にしみてわかります。

次にサンガスタジアムを訪れるとき、試合を観ながら少しだけ建物の設計にも目を向けてみてください。屋根の張り出し方、コンコースの幅、ピッチとの距離感、売店の分散配置、大型ビジョンの見やすさ。「これは設計の力だ」と感じる瞬間が、きっとあります。

サンガスタジアムのスタグルガイドはこちら

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